世の中に、知って損する知識は無いんだよ

学校で習わない、知ってるとニヤッとできるものを集めます。

「獣の奏者」 上橋菜穂子著

 よみがなは濁る。「そうじゃ」と読む。人 に対してではなく、大いなる存在に向けて音 を奏でるとき、そう発音するのだと祖父から 聞いた。この説の真偽は分からない。だが、 きっと正しかったのだろうと本を読んで思う。  この本がいつ手元に来たのか覚えていない。 大学時代は管弦楽団にいたから、きっと「奏 者」のことばに惹かれたのだ。そうして読み 始め一瞬で、引き込まれた。獣を救うために、 想いを伝えるために、ただただ音を奏でる少 女と、その世界観と、怒涛のクライマックス と、問いの深さと普遍性にである。  著者は、作品の中で1つの問いを持ち続け た。人は自然の中で、どうやって生を営むの か。この本の主人公で好奇心おう盛な少女エ リンはこの問いに挑む。彼女は、初めは生き 物が今の姿をしていることへの興味と疑問か ら。そして、たくさんの生き物の一員である 人の、生き方やあり方へと問いを深める。  問いを持って言葉と向き合うとき、私たち が見出するのは「時を経ても変わらない普遍 性」ではないかと助言をいただく事があった。  どう生きるかについて、私たちにはたくさ んのことばを知っている。もし、問いのヒン トを私が好きに選ぶなら、S・ソレンソンの 書く「良心に恥じぬという報酬」。カーソン の言う「大いなる自然に畏敬を表すこころ」。  文化人類学者でも本作著者が、物語の中に 散りばめた問いはたくさんある。平和と犠牲、 伝統と革新、自然と文明。その挟間にあって どう生きれるのかを著者が応えるとしたら。 ヒントは、生き物を生かしも殺しもする水の 一滴にある。親が子をいつくしむ心で、人と 獣のあいだの不協和音で、それでも刹那とし て、人と獣のあいだに生まれる奇跡にある。  未知の調べを聴きたくて、命続く限り弦を はじき続ける娘。4ヶ月間作者を突き動かし たイメージから生まれた本は大いなる普遍へ のヒントをまとって児童文学の枠を、こえる。